20歳からの中二病

 

中二病と言う言葉が浸透してどれほど経っただろうか。

邪気眼とも言うし、厨二病とも表記する。

 

恐らく、私がリアル中2だった時はまだ正確な言葉としては確立していなかった概念だ。ただ、私が中2だった時どころか両親がその年頃だった頃に遡ってもそういう人種はいただろう。14歳ってそういう時期だ。

 

私の場合は14歳で既に漫画のキャラクターにベタ惚れしまくっていたので方向性が違うかもしれない。つーか今もそうだ。死ぬ直前の走馬灯には2次元のキャラが100人くらい出てくるんじゃねえかと思う。

 

とにかく、”自分はエストリア帝国の姫なのだが普段はそれを隠している”とか”先祖が安倍晴明で巫女としての能力を秘めた美少女”とか”恋人は国一番のスナイパーのアルフレッド”とかそういうことは考えていなかった。

 

その代り、家庭教師ヒットマンREBORN!に出てくるイタリアのマフィア・スクアーロに焦がれていた。

 

今でも思い出すと胸がキュッとなる(悪い意味で)のだが、好きすぎて彼が鮫に食われた時に後追いしようと思った。

 

それまで私が見たことのある鮫は地元の水族館のふれあいコーナーにいる小さな鮫だけだったので、なんとなく太平洋の沖まで行けば死ねるのではとか思った。この時点で脳内でアルフレッドとイチャついてた方がまだマシな気がする。

 

ちなみに彼は鮫に食われかけたが生きていた。本当に良かった。14歳の中学生に天を仰いで男泣きさせるとは罪な男だ。ほんとにな。責任取れや。

 

そんな私が18くらいになる頃、すっかり中二病はネタとして扱われるようになっていた。あの瑞々しいイタさも一つのジャンルとして収斂してしまったように感じる。

 

その代替品と表すのは少し違うだろうが、そのころから「サブカル」という言葉が瞬く間に広まった。

 

サブカルは褒め言葉であり、貶し言葉である。

 

私も例に漏れずそういうバンドにハマったりそういう作品を読んだりヴィレッジバンガードハッピーツリーフレンズのラバーマスコットを買ってきて通学カバンに付けたりヘッドフォンでゆらゆら帝国を聞きながら学校へ行ったりした。濃縮還元のイタさから希釈したイタさにクラスチェンジした訳だが、周りにもそういう子は沢山居た。私サブカルブスだから~と名乗ることの妙な心地よさと楽さ。思春期だから許してほしい。

 

そんな世代が成人して、どうなったかと言うと。

 

これは私に限った事なのかよくわからないが、ここにきて敢えての中二病を謳歌したさに満ちている。

 

オイイイイイイイイイイ!とか言いたい。

 

銃の手入れをしながら「ったく、損な役回りね……」とため息を吐きたい。

 

一族が千年前に封印した禁忌呪術であるコールド・ストリング・キッス(-200度まで凍らせた網状の氷を一面に放ち相手を死に追いやる技)を解放したい。

 

最近は真面目に「自分の属性は闇&氷がいいなぁ」と思っている。そういうことを考えている時は大体仕事をしている時なので単に現実逃避とも言えよう。

 

もう大人だから。税金と年金払ってるから。敢えてね、敢えて。一生敢えんな。

 

今や中二病は一つのジャンルになったしサブカルもそういうくくりになってしまった気がしてならない。個性派が集まるといつのまにか個性を失いネズミの群れみたいに皆同じになるように。だけどまぁ、カテゴライズされる安心感というものも確実にあって、私のように今、敢えての中二病を満喫している社会人も少なからずいるのではないか。

 

きっと今日も全国のオフィスには”私には異世界に恋人がいてその彼はCV櫻井孝宏でイケメンなのだが実は魔界のプリンスでドSで……”とか思いながら資料をコピーしているOLがいるのだ。

 

”下宿先のアパートの風呂場に突如半獣の美少女が!?突然始まるハチャメチャラブコメ!”を妄想しているサラリーマンもいるのだ。

 

そのうちの一人である身としては、両手を合わせて「幸あれ」と願う事しか出来ない。