神は「ワンちゃんあれ」と言った。するとワンちゃんがあった。
今週のお題「感謝したいこと」
最近、ジョギングにハマっている。きっかけは秋に受けた健康診断で、「血糖値が高めなんだよねきみって」と言われた事である。医者にって言うか、結果の用紙に。ダメージを和らげるために私の好きなマイペース美青年風に喋らせただけです。ウェービィな金髪の美青年が頬杖ついて言ってることにしてください。
さて、血糖値を改善するために食事制限を始めるか、運動を始めるか。迷ったものの、ここで運動を選ばないと私のようなインドアオタクは一生運動しねえなと思い、とりあえずジョギングを始めた。
インドアオタクではあるが基本的に運動は嫌いではなく、長時間歩くのも苦にならないタイプだ。涼しい季節にのんびり走るのも良いんじゃなかろうか。健康に良いし、新しいことを始めたかったし……。
いや、正直に言う。私はジョギングにかこつけて夕方に散歩している犬を触りたかったのである。
普段は駅まで自転車なので散歩している犬を見つけても飼い主さんに声をかけることは中々できない。だってなんか怖くないか、爆速チャリ漕ぎ女が急に目の前で止まって真顔で近づいてきて「ワンちゃん触って良いですか」とか聞いてくるの。犬もビビるわ。
そんなわけで私は長年、他所様のワンちゃんを撫で繰り回したい欲求を胸の内に熟成させ続けていたのだ。実家には世界一可愛い柴犬が居るがコロナウイルスの流行により帰る頻度がだいぶ減ってしまった。それに家の周りには割と色んな種類の犬が住んでいて、その色んな種類の犬を撫でられたらどんなに幸せだろうとずっと夢見ていたのである。
ああ……犬を撫でたい……できればでっかい犬を撫でたい……太いあんよとマズルをそっと撫でたい……耳の付け根を掻いて差し上げたい……「体重何キロですか?43kg?へえ~!」とか言いながら撫でたい……でも小さい犬も可愛い……ホバリングみたいに必死で歩く様(さま)メチャクチャカワイイネ…
そんなことを考えつつも、可愛いワンちゃんとすれ違うと5mほど進んでチャリを止め、そっとその愛らしい姿を見つめ、満足したら去る……今までの私にできるのはそれだけだった。登下校中の女子生徒をつけ狙う変態に己が重なる。
しかしジョギングしている人間ならそんなに怪しまれないのではないか?大体2kmごと、もしくは大きな公園に着く度にストレッチをしているので、その流れでワンちゃんが来たら挨拶をして撫でてもいいか聞けばいい。自然な流れだ。
こう来たら(可愛いワンちゃんが近づいてくる)
こう(挨拶して撫でていいか確認)!
こう来たら(可愛いワンちゃんが近づいてくる)
こう(挨拶して撫でていいか確認)!!
夜の部屋にイメトレに励む私のシルエットが浮かび上がる。触れないタイプのワンちゃんでも「あ~そうなんですね、ごめんなさい!」と一礼してジョギングに戻ればいい。退路も完璧だ。
しかし私は知る。実際、ジョギング中に犬と出会ってもこれがなかなか声をかけにくいということを。
既に飼い主コミュニティが出来上がっている所に一人入って行くのは結構勇気がいるし、小型犬だと怖がりさんが多い(何度か断られてしまった)。あんまり汗ダクダクで近寄るのも恥ずかしい。「えっここで?」と言うような大きな交差点や道のど真ん中で声をかけるのも迷惑だろうか……と考えてしまう。
私はただ犬を撫でたいだけなんだ!と叫びながら走りそうになるが、いよいよ何のために走ってるのかわからない。Youtubeで大型犬の動画を目ぇかっぴらいて見る毎日に終止符を打ちたい。あ、いや動画は毎日見続けます。でもおさわりしたいんだよ!
そして何度目かのジョギング中、ついにその僥倖は訪れた。
既に8kmほど走り疲れた頃、前方におじさんがつくばっているのに気が付いたのだ。すわ何事か、と近づけばおじさんの横には小さな柴犬がいるではないか。おじさんにくっついてちょこんとお座りをして、おじさんはそんな柴犬の背中に優しく手を当てている。どうやら坂道の途中で夕陽を見ているらしい。
その風景だけで物凄く癒されたのだが、意を決して近づき声をかけてみた。
「あの、すいません……ワンちゃん撫でても大丈夫ですか?」
「ああ~どうぞどうぞ~」
♪
We are the champions, my friends
And we'll keep on fighting 'til the end
No time for losers
'Cause we are the champions of the world……
Queen - We Are The Champions (Official Live Video)
※オタクはすぐ誇大表現を使うがマジでこれくらいの喜びがあった。あと、ボヘミアンラプソディ超良かった。
ふわっふわの毛並み。くりくりとした黒いおめめ。ぷんぷん振られる巻き毛のしっぽ。濡れたお鼻。こんがりキツネ色の三角耳。健康そうなピンクの舌。お利口に撫でられてくれる4歳の柴犬くん。生命……。
感極まった私が「かわいい……かわいいです……かわいい……」と言う度におじさんは「うれしいねえ、うれしいねえ」とニコニコする。
カイジで言う所の"感謝っ……!圧倒的感謝っ……!"だ。マジで。犬、マジで可愛い。犬、栄光あれ。犬、サンキュー。
丁重にお礼を申し上げてその場を去ったのだが、久方ぶりのもふもふに感動が止まらなかった。あんなに可愛いワンちゃんを見ず知らずの女に撫でさせてくださってありがとうございます……ハレルヤ……と拝みたくなる。あと、その日はジョギングアプリのメモ欄に"犬"と書いた。
最近はルートを開拓しつつあり、より多くのワンちゃんが集う公園を幾つか廻っている。
私は今週も走る。犬を撫でたいから。
もう血糖値とかどうでもいい。
余談
グレートピレニーズが大好きだ。別名ピレニアン・マウンテン・ドッグ。フランス原産で一時はフランス王国法廷の公式犬でもあった。超大型犬に属しオスは70kgを超えることもある。体高90cmとかも珍しくない。つまりはでっけえでっけえ白いモフモフワンちゃんだ。大らかそうに見えるがガードドッグなだけあって競争心が強い。
土地が狭く高温多湿の日本ではなかなか飼育ハードルが高い犬種だが先日ついにピレニーズをモフる機会に恵まれた。ピレニーズの存在を知って以来の夢が叶い感無量だ。ありがとうございます。
同じくらいバーニーズ・マウンテン・ドッグが好きだ。こちらはスイスのマウンテンドッグ。茶色のマロ眉とお顔の白黒茶の模様がとんでもなくキュート。こちらも大きい個体は70kgオーバーでピレと同様あんよがぶっとい。基本的にフレンドリーなかまってちゃん。まだバーニーズは撫でたことが無いが近々保護犬カフェ(正式には違うんだけど)に行く予定なので、そこで撫でられたらいいな。
他にもラブラドール、ゴールデン、レオンベルガー、バーナード、スタンプー、ワイマラナー、ハスキー、マラミュート、シェパード、グレートデン、ランドシーア、ダルメシアン、ニューファンドランド、ロットテイラー、偉大なるマスティフ群等、基本的に大型犬なら何でも好きだ。というか犬は全部好きだが、好きな犬種は?と言われて出てくるのが9割大型犬なのだ。
今の所、近所には黒ラブ、白ラブ、ハスキー、ピレニーズが住んでいる。撫でられなくとも、彼ら彼女らの姿を見るだけでジョギングへのモチベーションはこれ以上ないほど上がる。本当にありがたやありがたや。